『シャッターアイランド』考察

海に浮かぶ孤島"シャッターアイランド"には、精神病を患った犯罪者を収容するアッシュクリフ病院がある。ある日、レイチェルという女性患者がその病院で姿を消してしまい、連邦保安官のテディはその捜査のため島を訪れる。

本作は、デニス・ルヘインという小説家が書いた同名の小説が原作になっており、マーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプリオが4度目となるタッグを組んで制作された。デニス・ルヘインといえば、クリント・イーストウッド監督のミステリー映画『ミスティック・リバー』(2003)の原作小説を書いた人としても有名である。

 

ネタバレありで考察します。映画を観てから読んでください。

伏線や謎が残るシーンが多い本作だが、それを語り始めるとキリが無くなりそうなので(追記するかも)、ラストシーンに絞って考察していきたいと思う。

ラストシーンの疑問

@Paramount Pictures Corporation

この映画のラストシーンは、テディ(アンドリュー)がシーアン医師に「モンスターとして生きるか、善人として死ぬか」と語り、どこかへ連れられていく、というシーンで終わっている。なんとも言えない余韻が残るこのラストシーンだが、ひとつ疑問に残るのがシーアン医師がとっさに「テディ」と呼んでいることだ。

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シーアン医師は灯台でテディの前に現れた際に、主人公のことを「アンドリュー」と何度も呼んでいて、ベッドで目を覚ました主人公に対しても「アンドリュー」と呼びかけている。しかし、ラストシーンでは「テディ」と呼んでいる。ここで「テディ」と呼ぶのは不自然ではないだろうか?

この発言をどう捉えるかによって、3通りのストーリーが考えらる。

①咄嗟に出てしまったシーアン医師の言い間違いを表現した
自分をテディだと思い込む主人公の主治医として、そのテディの相棒のチャック捜査官として過ごしていたことで、主人公をテディと呼ぶことに慣れてしまい、咄嗟にテディと呼んでしまったとも考えられる。そしてこの後主人公はロボトミー手術を受けるという素直なストーリーだ。

②主人公の本名はテディ・ダニエルズ
本名がアンドリューというのは病院側の嘘で、シーアン医師はそれを知っているという可能性もある。
つまり、病院側が過去にトラウマを持つ主人公をターゲットに無いはずの記憶を植え付ける”インセプション”みたいな精神実験を行おうとしていたが失敗に終わり、シーアン医師がそれを院長に合図している、というシーンにも見えなくはない。

③そもそも"ラスト"シーンではない
このラストシーンは、灯台で種明かしをされた後のことように描かれていますが、そうではない可能性もある。
主人公にあらゆる治療を行ったシーアン医師が失敗を院長に合図し、これから最終手段として主人公の捜査劇に付き合う。つまり、映画の冒頭へと繋がるという、時系列的にはラストシーンではないの可能性も考えられる。テディの額にある謎の絆創膏も外れているし...。

ただ確実に言えることは、わざわざ「テディ」と呼ぶことに何らかの意味があるということである。

この余韻が残るラストシーンは映画オリジナルの要素が多く、「モンスターとして生きるか、善人として死ぬか」というセリフは、原作小説にはない映画オリジナルのセリフで、それに対してシーアン医師が「テディ」と呼ぶのももちろん映画オリジナルのセリフである。映画を撮るにあたってわざわざ入れたセリフなので、セリフミスということではないだろう。

病院側が黒幕というのは深読みしすぎか?

ネットなどで考察を見ていると、テディの正体がアンドリュー・レディスで、精神異常者だと信じて疑わない人が想像より多いことに驚いた。たしかに『シャッターアイランド』は、観る人が主人公の視点に入り込みやすくなるというのを逆手に取ったどんでん返しが魅力の作品であり、本当は病院側の何らかの陰謀だったというオチなら綺麗などんでん返し映画にはならないというのは分かる。

しかし、「絶対に主人公が精神異常者なんだ!」と決めつけてしまうのもどうなのだろうかと思う。
なぜこのように病院側を疑ってしまうのかと言うと、病院の院長を演じるベン・キングスレーが胡散臭くて怪しい演技をするのが絶妙に上手いというのももちろんあるが、テディがレイチェル・ソランドーと話すシーンが理由である。

作中に登場したレイチェルが架空かどうかは置いといて、レイチェルは「"病気"と思われたら何をしてもそのせいにされる」と発言している。

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つまり、観る人が1度でもテディを病気だと思い込んだら、何をしてもテディの行動が病気ゆえのものだと認識してしまうことを表しているのではないかということだ。

これを踏まえた上で「絶対にテディは精神異常者である」と言い切るのは、私には難しい。

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